クラシック音楽あれこれ

クラシック音楽のことをメインに語ります。

神か悪魔か

ハンス・クナッパーツブッシュ。彼の奏でる音楽を聴くと、時々人智を超えた神秘の世界へと誘われる気分になる。

たとえば1957年、フルトヴェングラー没後3年を追悼したベルリン・フィルとのブラームス交響曲第3番を聴いてみるがいい。

本来なら悲劇的なはずの第一楽章が、ここでは悪魔の哄笑にさえ響いてくる。フルトヴェングラーよ、お前さんは死んでしまったが俺様は生きてるぜ。

意地悪く解釈すれば、そんな風に歌い上げているかのように聴こえてくる。クナ(ドイツや日本では、この愛称で呼ばれている)の中に潜むデモーニッシュな一面を垣間見た気さえする。

たとえば小品においても、クナは一筋縄ではいかない振り方をする。初めて聴いたシューベルトの「軍隊行進曲」、仰け反るほど驚いた。

普通だと3分弱くらいで収まるこの曲を、クナは5分強にまで伸ばして演奏させた。こんなにゆっくりとしたテンポで大丈夫なのか。

不安がったウィーン・フィルの楽員が尋ねると、

「君、こいつは馬車が走っていた頃に作曲されたものなんだぜ」

一切歯牙にかけなかった。実際に聴いてみると、「軍隊行進曲」の演奏はこれ以外は考えられない気になり、他のいかにも小品ですと言わんばかりのものが物足りなくなってしまう。

荘厳さと愛おしさという、相反する調べが同居したこれを聴くと、本当に同じ人間の振ったものかと茫然とさせられる。

もちろんクナッパーツブッシュ本来の持ち味は、ワーグナーブルックナーに十二分なくらい発揮されている。

が、それを聴く前に入門編として前記のものやブラームスの「大学祝典序曲」、「悲劇的序曲」から聴き始めることをお薦めする。

そこにはやはりクナ狂であった宇野功芳の得意の言い回し、"切れば血の出る演奏"に溢れている。好き嫌いがはっきりと出るかもしれないが、一度も聴かないのはあまりにもったいない!

※このブログは、毎週土曜日更新予定です。

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