クラシック音楽あれこれ

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死刑執行人

「私は、自分が破滅させたい者を破滅させることができる」

もしもあなたが、面と向かってこんな言葉を投げかけられたらどうするだろう。反発するか震え上がるかのどちらかであろう。

実際これを言われたのが、長大な交響曲を量産したアントン・ブルックナーであった。言ったのは、当時のウィーン楽壇にその人ありと言われた評論家エドゥアルト・ハンスリックだった。

何故か?ブルックナーが熱烈なワーグナーファンいわゆるワグネリアンだったからに他ならない。ワーグナーの音楽を理解できなかったためもあろう。

それ以上にワーグナーを、公序良俗を乱す破廉恥な輩と憎悪さえしていた。それはそうだろう。借りた金は返さない。何人もの人妻と不倫は繰り返す。

それ以上に当時のウィーン楽壇が眉をひそめたのは、妻帯者であるにも関わらずワーグナーが弟子のハンス・フォン・ビューローの奥さんとダブル不倫の末妊娠させてしまったことだ。

これが元で、リストの娘にあたるコジマという女性を強奪するように再婚したのだ。弟子のビューローにしてみれば、踏んだり蹴ったりもいいところである。

これが断絶の原因となり、ビューローはワーグナーと敵対関係にあったブラームスを支持するようになる。ワーグナーもさぞかし腹が立っただろうが自業自得である。

さて、ハンスリック。彼にしてみれば、敵の敵は味方ということでビューローと徒党を組むようにしてブラームス支持に回った。

これがいわゆる、19世紀後半のウィーン楽壇で展開されたワーグナー派とブラームス派の対立という不毛極まりない争いとなった。

ワーグナー派の作曲家フーゴー・ヴォルフが、

「歯の抜けたよれよれの老婆が奏でるような、時代遅れの音楽」

と、ブラームス交響曲をこき下ろせば、

「ただやたらと長いだけ。どこが良いのか理解不能

と、ワーグナーの楽劇をバッサリ。正にどちらも譲らない。

※この稿、続く。

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